富山県でマジシャン事務所を経営しながら、自社の経理・SNS発信・出演管理・倫理法人会の役員業務まで、30以上の自作AIコマンドで動かしている。エンジニアではない。生成AI「Claude Code」に、自分の業務を一つずつ覚えさせた結果だ。本記事では、現役プロマジシャン経営者が実際に動かしているコマンドの全リストと、月50時間以上の業務削減につながった具体事例を公開する。
なぜマジシャンがAI自動化に行き着いたのか?
結論:一人で全部やるしかなかったから。
株式会社コンプオフィスは、コンプレッサー一人で動いているマジシャン事務所だ。出演があれば現場に立ち、現場が終われば経理伝票を切り、SNSで告知をして、来月の出演スケジュールを調整して、倫理法人会の幹事長業務もこなす。これに加えて、AI事業の立ち上げ、ブログ記事の更新、税理士への月次決算データ提出。
ぜんぶを「ちゃんと」やろうとすると、寝る時間がなくなる。
そこに 2025年から本格的に台頭した生成AIエージェント「Claude Code」が現れた。コードを書くためのツール、と最初は思っていた。でも触ってみると違った。自然言語で「こういう業務を自動化したい」と頼むと、必要なスクリプトをその場で書いて、動かしてくれる。
その瞬間に発想が変わった。「コードを書く」ではなく、「業務を覚えさせる」ためのツールだ、と。
マジシャンは舞台で「観客の頭の中を読む」訓練を積んでいる。相手が何を期待しているかを察知する力は、AIに指示を出すうえでも武器になった。「マジシャンとAIは相性がいい」 — これは個人的な体感だが、いまも実感している。
実際にどんなAIコマンドが動いているのか?
結論:経理・売上管理・SNS発信・スケジュール管理・問合せ対応まで網羅している。
コンプオフィスで現在稼働中の主なコマンドを、業務カテゴリ別に整理する。すべて /<コマンド名> の一言で起動する自作スラッシュコマンドだ。
経理・会計の自動化
| コマンド | 内容 | 削減効果 |
|---|---|---|
/レシート | レシートPDFを Gemini Vision で2回OCR → 突合 → 検証 → Sheets追記+画像保管+MD生成 | 1件30秒→自動 |
/auto-journal | 経費を自動で勘定科目マッピング → JDL会計ソフト用CSV出力 | 月8時間→1時間 |
/月次 | 月次経理クローズの一括処理(レシート→売上→給与→JDL→検証) | 月2日→2時間 |
/請求書 | 売上台帳からPDF請求書を自動生成+台帳更新 | 1件15分→1分 |
/payment-check | 入金消込チェック(未入金一覧+滞留アラート) | 月1時間→5分 |
/uriage | 売上台帳の同期(CSV ⇔ Google Sheets ⇔ 全体まとめ) | 月3時間→10分 |
/給与明細 | 月次給与明細作成(出演集計→源泉税→Sheets) | 月2時間→10分 |
出演管理・スケジューリング
| コマンド | 内容 | 削減効果 |
|---|---|---|
/予定 | Googleカレンダー3ヶ月分読み込み→スケジュール更新→今日の段取り報告 | 朝の確認10分→1分 |
/カレンダー | 出演カレンダーHP更新+自動デプロイ | 1件15分→30秒 |
/出演依頼 | 出演依頼メール→カレンダー登録+売上台帳+返信下書きを一括処理 | 1件30分→3分 |
SNS・情報発信
| コマンド | 内容 | 削減効果 |
|---|---|---|
/ブログ | イベント・体験 → SEO最適化ブログ記事生成 | 1本2時間→20分 |
/ラジオ | ラジオ台本 → ブログ記事化 | 1本1時間→10分 |
/FB /インスタ /X | ブログ記事から各SNS用に投稿文を最適化生成 | 3媒体30分→5分 |
/名言 | 朝の名言投稿作成(重複チェック→過去資産参照→投稿文→アーカイブ) | 毎朝10分→1分 |
/wp-publish | WordPress自動投稿(MD→下書き・SEO設定・画像アップ) | 1本30分→2分 |
/イラスト | ブログ記事用イラストを Gemini API で生成 | 1枚20分→1分 |
組織運営・コミュニケーション
| コマンド | 内容 | 削減効果 |
|---|---|---|
/議事録 | 倫理法人会の議事録テンプレート生成(前回引き継ぎ付き) | 1回1時間→10分 |
/メッセージ | メッセンジャー用メッセージを整形して出力 | 1件5分→30秒 |
/バレー | バレーボール荷物当番表の生成・更新 | 月30分→1分 |
/職場の教養 | 職場の教養JPG → 一括文字起こし → 定型フォーマットtxt出力 | 月1時間→5分 |
業務基盤・データ管理
| コマンド | 内容 | 削減効果 |
|---|---|---|
/スキャン | ScanSnap新規データの検出 → 振り分け → 整理 | 1回20分→自動 |
/アナリティクス | GA4 + Search Console データ一括ダウンロード→フォルダ管理 | 月30分→1分 |
/sync-all | 全リポジトリ一括ステータス確認&コミット&プッシュ | 1回10分→30秒 |
/オブシディアン | 日次メモを分析 → 内容に応じて3ワークスペースへ自動振り分け&転記 | 毎日15分→自動 |
ここに挙げただけで25以上、季節業務(年末調整、決算、棚卸し等)の臨時コマンドを含めると 30を優に超える。
そして重要なのは、これら全部を一人の非エンジニア経営者が、自分の業務を覚えさせる形で作ったということだ。
効果はどれくらいあったのか?
結論:累計で月50時間以上の業務削減。経営判断のスピードが別物になった。
最も効果が大きかったのは、「やる気と頭の余白」の解放だ。時間削減だけなら数字で見える。でも本当の変化は数字には出にくい。
- 月50時間以上の業務削減(経理2日→2時間、SNS3媒体30分→5分、ほか累計)
- 経営判断の即応性:「これいくら売上残ってる?」が秒で出る
- ヒューマンエラー激減:人間の見逃しを「ダブルチェックフック」というAI監視層が止める
- 属人化からの脱出:すべての業務がコマンドとして書面化されているため、引き継ぎ可能
具体例を一つだけ挙げる。
月次決算の処理時間:2日 → 2時間
以前は、月末になるとレシートの山を整理し、レジ売上を集計し、給与計算をして源泉税を計算し、JDL会計ソフトに手入力する作業に丸2日かかっていた。
いまは /月次 と一言打つだけで、/レシート → /uriage → /給与明細 → /auto-journal の連鎖が走り、最後に検証レポートが出る。人間がやるのは「結果を読んで承認する」だけ。所要時間は 約2時間。
この削減で生まれた時間を、AI事業の立ち上げと営業活動に投入できている。本業の経営にAIで生まれた時間を再投資する、というサイクルが回り始めた。
非エンジニアでも本当にできるのか?
結論:できる。ただしコツがある。
コンプレッサーはエンジニアではない。プログラミング経験はゼロからスタートだ。それでも30以上のコマンドを稼働させられた理由は、Claude Code に自然言語で頼んだだけだから。
ただし、「いきなり全部AIに任せる」のは失敗する。実体験から得た、非エンジニア経営者のための3つのコツを共有する。
コツ1:いちばん面倒な業務から1つだけ任せる
最初に作ったのは /レシート だった。経理で一番嫌いだったから。「レシートPDFを読み取って、勘定科目を判定して、Google Sheetsに追記して」と日本語で頼んだら、20分後には動いていた。
いきなり全業務を自動化しようとせず、「一番嫌いな業務」を一つだけAIに渡す。成功体験ができれば、次が見えてくる。
コツ2:必ず「dry-run → 人間確認 → 本番実行」の3段階にする
請求書発行、給与振込、外部送信のような「やり直しがきかない処理」は、最初から本番実行させてはいけない。
- dry-run:実際の処理はせず、「こうなる予定」だけ出す
- 人間確認:結果を目で見てOKを出す
- 本番実行:承認後に初めて実処理
この3段階を徹底すれば、AIが間違っても致命傷にはならない。
コツ3:失敗したら必ず「フック」で再発防止
過去にAIが請求書の宛名を間違えたことがある。一度きりにするため、「請求書ファイルに『様』が抜けていたらブロックする」という監視機構(フック)を入れた。
このように、失敗のたびにダブルチェックの仕組みを足していく。半年も続ければ、同じ過ちを繰り返さないAIに育つ。
中小企業がAI自動化を始めるならどこから?
結論:いま一番イヤな業務を1つ書き出すこと。それがスタート地点。
経営者と話していて気づくのは、「AIで何ができるか」を考えすぎて止まっているケースが圧倒的に多いことだ。
逆だ。「自分が一番やりたくない業務は何か」を一つ書き出す。それがAI導入の入口になる。
コンプオフィスの場合は「レシート整理」だった。多くの中小企業で共通するのは:
- 経理:レシート整理、月次集計、請求書発行
- 営業:見積書作成、顧客対応の定型返信
- 人事:シフト管理、給与計算、勤怠集計
- 情報発信:SNS投稿、ブログ更新、お知らせ作成
- 報告:日報、週報、議事録
このどれかから始めれば、必ず効果が出る。
そして、始めるための初期コストは月3000円程度で十分だ。Claude(または同等の生成AI)の月額20ドル前後+Google Workspaceの最小プラン。これでコンプオフィスは30以上のコマンドを動かしている。
マジシャンとして、AIに期待しているもの
最後に、マジシャンの目線から一つだけ。
マジックという仕事は、観客の「あり得ない」という感情を引き出す商売だ。目の前で起きていることが、頭の理解を超える瞬間に、人は心を動かす。
生成AIで自社業務を回し始めて感じたのは、**「これは現代のマジックに近い」**ということだった。1分前まで考えていなかった処理が、自然言語で頼んだだけで動き出す。経営者として、これに最初に触れた驚きを忘れない。
だからこそ、富山の中小企業の経営者の方々にも、「あり得ない」を実体験してほしいと思っている。AI講演で見せているのは、技術解説ではない。経営者がAIで何を変えられるのか、その驚きと希望を渡したい。
そして「うちでも同じことをしたい」というご相談があれば、業務改善AIアプリの企画・開発・伴走支援で一緒に組み立てる。それが株式会社コンプオフィスの仕事だ。
